Concept

-制作コンセプトについて

 

 私の制作コンセプトは「命の繋がり」です。「命の繋がり」とは、宇 宙の誕生から過去・現在・未来を通じて、全ての時間と空間の中で生じる命の連鎖のことです。宇宙の誕生から現代までの約数百億年の間に、万物の基となる物 質は、様々な惑星(太陽系・地球等)を形成しました。地球上で誕生した原始生物が、進化と共に絶滅と生成を繰り返し、種の多様性を得て過去・現在・未来を 通じて共存しています。命の連鎖とは、森羅万象に共通する粒子から細胞が誕生し、多種多様な生物へと進化を経る中で、生と死を通じて生物から再び粒子(最 小の物質)へと還元される一連の過程であり、更にその生成と分解を全ての生物が同様に繰り返すことです。その一連の中で、生物は時代毎に子孫を残し、自ら の遺伝情報の伝達と種の保存を本能的に行っています。生物間の異種・同種が互いに連関し共存する上で、生存維持に必要な環境や活動が成り立っていると考え られます。

 「命の繋がり」を創作概念として確立したのは、生物間における形態 の類似性(毛細血管と植物の根等の類似性)に感銘を受けたからです。現在の生物間に見られる形態や性質の類似性(恒常性・自己複製能力・エネルギーの変換 を行う等)は、全ての生命がある根源的な共通の祖先(原始生物)から多種多様に進化した存在であるということを示唆しています。原始生物を構成する物質は 極めて小さな粒子であり、これが「物質的な命の本質」であると考えます。この粒子は森羅万象を構成し、生物の生と死を通して過去から未来に掛けて輪のよう な一連の繋がり、「命の連鎖」を形成していると考えられます。

「命の連鎖」の中で誕生した多種多様な生物の中で、人類は他の生物よ り脳が進化し、約数千年の間に生命活動に加えて極めて理知的な活動を営んできました。進化と共に知能や心、精神の働きは複雑化し、それらが蓄積された固有 の存在が全て無に帰するという「死」の存在について、人類が考察し始めたことは必然でした。進化と共に得た意識の発達によって、「死後肉体は消滅する。で は、心や精神、我々の存在と行方はどうなるのか」という極めて不明瞭な問題を浮き彫りにし、また未解決のまま、未だ問い続けているのです。

 このような問いから私は、心や意識等の「形而上的な存在」の根底を 成すものとして、「形而上的な存在の本質」が存在すると仮定しました。眼に見える物質的な存在の本質である粒子(万物を構成する最小の物質)が、生命の死 後自然へと還元され循環していくことに対して、眼に見えない形而上的な存在の本質はどのような状態を持って変化し、或いは存在するのでしょうか。私は、抽 象的或は写実的な描写等による様々な芸術的行為を通して、この問いに対して芸術的観点から探求しています。

 

 現代において芸術は様々なジャンルに別れ、多様化し続けています。 その中で創作版画とは、今日までの伝統的な表現の良さ、或は尊さを軸に保ちながら、新たな表現へと更に発展する可能性を秘めていると考えます。芸術・創作 版画も生命の連鎖と同様に、根源的な部分を大切に保ち、また後世に伝達する上で、新たな進化を経ているのです。